令和とか昭和とかじゃない

「ごめんなさい、主人が他界したからもう修理は受けかねるんです」と電話口に出られたのは多分亡くなられた店主の奥様だろう。

帽子工房 井上帽子が作る帽子はオールハンドメイドであるので、帽子の修理も喜んでやってくれていた。だから僕はショックなのだ。

ほころびが酷くなったので、このような状態でも修理は可能かという確認のため電話をしたのだが、悲しくも冒頭の回答であった。

控え目にしのばせてある付け札である。帽子工房を生業としてこられ店主のお人柄の表れなのだろう。「愛着」今この使い捨ての時代にそぐわない言葉かもしれませんが、僕はこの言葉がとっても好きであるし、この帽子にはそれを感じている。

しばし奥様と話させていただいたが、生前ご主人は帽子の修理依頼を喜んで受けていらっしゃったとのこと。修理をしてでも長く使ってもらえることは帽子工房としての誇りであり、そしてなによりも喜びだったんではないかというお話だった。

ご冥福をお祈りいたします。